「こころの家庭教師」でご家庭に訪問し、お話を聴いたり勉強を一
緒にする際、本人の部屋に入れていただく機会が多いのですが、た
いてい、一つや二つ、部屋の壁に穴が開いています。ガラスの戸棚
などは、ガラスが割れ、ガムテープなどで応急処置が施されたまま、
という場合もあります。...
私たちは、自分の思いや考えを伝える道具として、「言葉」をもっ
ています。使い方によってはとても便利で、社会生活を送る上で欠
かせない道具の一つですよね。
「こころの家庭教師」でお会いする方たちは、この「言葉」をうま
く操っていないような印象を受ける時があります。
コミュニケーションの取り方に独特の癖や偏りがあって、他人と円
滑に関係が作れていなかったり、過去のつらい経験からコミュニケ
ーションをとることを避けていたり、とその要因は個別的です。
中でも、「自分から接触したり言葉をかけたとしても、それが否定
されたり、拒否されたらどうしよう」という不安が先に立ってしま
い、言葉が出てこなかったり、コミュニケーションそのものを避け
てしまうという場合もあるのではないでしょうか。
言葉ではなかなか出てきませんが、自分の頭の中では、「こうなっ
たらどうしよう、ああなったらどうしよう」といろんな考えが堂々
めぐりをはじめており、その結果「そもそもそのような場面を回避
してしまおう」となってしまうのです。
ながらく家族だけの関係の中にいて、他人との関係を避けていると
人との関係の中で学ぶコミュニケーションの取り方や、妥協しつつ
も自分の気持ちをうまく伝えるなどといったスキルを学ぶ機会を逸
してしまいます。
これによって、ますます外の世界との接触を避けるようになり悪い
循環が始まってしまうのでしょう。
部屋の中にある、大小様々な穴やひび割れは、もしかしたら「言葉」
の代わりに彼らから発せられたメッセージなのかもしれません。
ご家族にはまずは、「言葉」を取り戻せないか提案します。本人た
ちと家族の間にでも「言葉」が失われているような状態であれば、
挨拶でもいい、こちらから話かけてたとえ無視されようと、いやな
顔されようと、働きかけ続けてください、と。
特に家族という親密な関係においては、どこかに「分かってくれる
だろう、理解してくれるはずだ」という甘えに似た感情が生まれて
きます。しかし、私たちは非言語的なものだけで十分なコミュニケ
ーションをとれるほど訓練されていません。時には誤解を生じるこ
ともあるでしょう。
だからこそ、話しかけ、「言葉」を取り戻すことに意味があるのだ
と感じます。
もしかしたら、「うざい」「消えてしまえ」といった単語だけがむ
なしく返ってくるかもしれません。しかし、せっかく言葉が出てき
たのですから、こんな時はその先にある気持ちにも耳を傾けてあげ
て欲しいのです。
じっくりと待ってあげれば、かれらの気持ちをすこしづつ理解でき
る言葉が出てくるのだと感じています。
私は、この繰り返しがかれらに「言葉」を思い出させて、やがてコ
ミュニケーションをとる手段として洗練されていくのだと信じてい
ます。
部屋の壁の穴をみて、かれらのメッセージを感じ、言葉にして投げ
かけてみるのはその第一歩なのだと思うのですが、いかがでしょう。
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